こんにちは、風馬(ふうま)です。
本日、母がバセドウ病の確定診断を受けました。
この記事では、病院薬剤師である僕が
治療法は?完治するの?
という疑問への答えを、本気でまとめました。
『入門!甲状腺疾患: 臨床に役立つ解剖生理から薬物治療までの基本(レシピプラス Vol.17 No.2)』
薬剤師向けの雑誌なので、知識ゼロの人にはやや難解かも知れません。
個人的にはフルカラーで内容もめちゃくちゃ分かりやすかったです。
『薬効別 服薬指導マニュアル 第9版』
薬剤師が服薬指導(患者への薬についての説明)をするときのマニュアルです。
例えるなら、国語辞典のようなイメージでOK。
バセドウ病の薬についての記載は3ページほどですが、必要なことはほぼ載っています。
ネットを探してもこの本ほどコンパクトに、深い内容を書いてある情報源はありません。
Q&A形式で、サクサクまとめていきます!
もくじ
バセドウ病について
バセドウ病って、どんな病気?
甲状腺の病気の1種です。
バセドウ病は、甲状腺が働きすぎてしまう病気です。
甲状腺って何?
甲状腺は首元の蝶ネクタイの位置にある、蝶ネクタイみたいな形の臓器です。
主な働きの1つに「甲状腺ホルモン」を作ることがあります。
甲状腺ホルモンって?
甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を調節しています。
ざっくり、体・精神の活動(代謝)を活発にするイメージでOK。
当然、生命維持に必須のホルモンです。
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されてしまう病気です。
そのため、新陳代謝が異常に亢進してしまいます。
※甲状腺ホルモンの働きの詳細は『バセドウ病の症状は?』で解説します。
どうして甲状腺ホルモンが分泌されすぎるの?
本来は体を守るはずの免疫システムが、甲状腺ホルモンをたくさん分泌させるように誤作動するからです。
このような免疫システムの異常が原因の病気を、自己免疫疾患と呼びます。
バセドウ病は体が甲状腺を刺激する抗体を作ることが原因で、甲状腺ホルモンを作り続けてしまいます。
『抗体』
免疫システムの一部で、本来は細菌やウイルスと戦うための身体の武器。
抗体が正常な組織に悪く働いてしまうと、自己免疫疾患になります。
どんな人に多いの?
若い女性に多いです。(具体的には、男性の5倍ほど。)
人間が1,000人いたら、2〜6人くらいはバセドウ病だと言われています。
バセドウ病の症状は?
甲状腺ホルモンが多量に分泌されることで基礎代謝・自律神経に影響して、全身の臓器・機能の回転がアップします。
- 精神面の亢進
→眠れない・不安や気分が落ち込む・ささいなことで不機嫌になる・活発になる - 代謝の亢進
→食欲はアップしても痩せる・暑がり、汗をたくさんかく・コレステロールが下がる(分解が増える)・血糖値が上がる・筋肉が減る(タンパクの分解が増える) - 自律神経の亢進(心臓などに影響)
→動機・息切れ・血圧が上がる・手のふるえ - 骨の亢進
→骨粗鬆症になりやすくなる - 消化管の亢進
→腹痛・下痢・排便回数が増える - 目の周りの炎症
→目が飛び出してくる・視力が障害される・充血する・ものが2重に見える - 甲状腺が腫れる
→首が太くなる
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バセドウ病の治療法
バセドウ病は治るの?
治ります。治療のゴールは寛解です。
『寛解』
症状が一時的に軽くなったり、消えたりした状態のこと。
このまま治ることもあるし、再発する可能性もあります。
どんな治療法があるの?
バセドウ病そのものに対しては
- 薬
- 放射線
- 手術
による治療法があります。
その中でも、薬による治療が第一選択(基本的に、最初に行われるべき治療法)です。
どんな薬で治療するの?
抗甲状腺薬を使います。
『抗甲状腺薬』
甲状腺ホルモンが作られすぎないようにして、異常な新陳代謝を抑える薬。
また、必要に応じて症状を抑える薬も使っていきます。
薬についてはバセドウ病の核となる治療であり、僕の専門分野でもあるので別の記事にまとめました。
→【薬剤師監修】バセドウ病の薬物療法について、本気でまとめた。
薬の治療が、放射線や手術より良い理由は?
薬による治療は、寛解を目指せることが最大の強みです。
放射線・手術による治療では、確かにバセドウ病を治すことはできます。
でも、生命を維持するのに必要な甲状腺ホルモンまでも作れなくなる可能性も高い。(ちょうどいい量の甲状腺を破壊するのは難しい)
そのため、甲状腺ホルモンを補充する治療(毎日の飲み薬)が一生必要になると思っていたほうが良いです。
なので最初に行う治療は、寛解を目指せる「薬による治療」が合理的なんです。
放射線の治療は何をするの?
放射能を出す薬(原子量131のヨウ素:原子記号I)を飲みます(難しい言葉で「放射性ヨウ素内用療法」といいます)。
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料なので、甲状腺に集まります。
よって、放射性医薬品であるI(131)を飲むことで、甲状腺を体の内部から被曝させて、破壊できます。
治療時以外で被爆の影響はほとんどなく、外部から放射線を当てるよりも安全に治療できます。
ただ、体に必要な甲状腺ホルモンを残す程度の破壊は難しいです。
なので生涯、甲状腺ホルモンを追加する毎日の飲み薬が必要になる場合が多いのがデメリット。
※ちなみに検査・診断用のヨウ素は原子量123で、放射線治療用のヨウ素(原子量131)とは別物です。
手術はどんなことをするの?
甲状腺を切除する手術(甲状腺摘出術)を行います。
ざっくり種類としては、甲状腺を切る量が少ない順から
- 甲状腺半切術
- 甲状腺亜全摘術(2/3以上の摘出)
- 甲状腺全摘術
があります。
全摘なら、甲状腺ホルモン補充療法(飲み薬)が生涯必須に。
ただ、一部摘出でも必要な甲状腺ホルモンの量を維持できるかは何とも言えません。
摘出不足なら再治療が必要ですし、摘出しすぎたら全摘と同じく甲状腺ホルモン補充療法(飲み薬)が生涯必要になります。
甲状腺ホルモン補充療法の詳細も、バセドウ病の薬物療法についての記事にまとめています。
→【薬剤師監修】バセドウ病の薬物療法について、本気でまとめた。
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バセドウ病との付き合い方
治療にはどのくらいの期間がかかるの?
内科に通院して薬で治療すれば、数年で甲状腺ホルモンを正常化できることが多いです。
放射線・手術による治療は薬よりも短期間で終了します。
でもその後に甲状腺ホルモンの補充療法(飲み薬)が必要になれば、補充療法を一生続けなければなりません。
眼科にも行ったほうがいいの?
もちろんです。
バセドウ病になった初期から、内科と眼科の両方にかかることが極めて重要です。
バセドウ病になると、目の周りの筋肉・脂肪組織に炎症が起きます。
炎症は主に抗体が原因なので、内科的なコントロール(甲状腺ホルモンの正常化)ができていても、目の症状とは関係ありません。
なので、薬によってバセドウ病がコントロールできていても、目の症状は軽症で済まないことも。
発病から数年間が一番病気の勢いが強いため、この間に目を悪化させないことが大切です。
正直、眼科の治療法については完全に専門外なのでよく分かりません。
母は目の腫れがあるので、MRIの検査とTA注射をする予定らしいです。
『TA(トリアムシノロンアセトニド)注射』
商品名:ケナコルト
TAは強力なステロイドで、眼球の外側に注射します。
炎症といえばステロイドが鉄板ですね。
外来で実施できる手軽な治療で、効果は3ヶ月ほどあるそうです。
食事で気をつけることはある?
特にありません。
普通の人と同じようにバランス良く、健康的な食事を心掛けるだけです。
海藻類(甲状腺ホルモンの原料であるヨウ素を多く含む)を過剰に食べない方が良いという話もありますが、常識的な量ならそこまで神経質になるほどでもありません。
再発はするの?
再発の可能性は0ではありません。
(甲状腺を全摘した場合は再発しません。)
月並みですが、再発予防にはストレス・過労を避けることが大切です。
激しい運動やヨウ素含有造影剤の使用にも注意しましょう。
まとめ
バセドウ病は良くなったり悪くなったりしながら、一般的には時間とともに回復する病気です。
ほとんどの場合、悪くなり続けることはありません。
また、治療法も確立されています。
病気の勢いが強い初期にしっかり治療することが重要です。
目の症状も、眼科に通っていれば目立たないレベルになる人がほとんど。
病気のことを心配しすぎて不安になるのも治療上良くありません。
焦らず、心配しすぎず、でも病気のことは忘れずに、バセドウ病と付き合っていくのがベストですね。
主治医を信じて、前向きに治療を続けていきましょう!