こんにちは、風馬(ふうま)です。
現役で、病院薬剤師をしています。
先日、僕の祖母が「透析なしで寿命までもつかどうか…」と診断されたそうです。
うちの家系で医療従事者は僕だけなので、祖父母・両親向けに腎臓について解説することにしました。
そうして生まれたのが本記事です。
この記事では、僕の家庭と同じような状況の人が抱くであろう
治療法は?生活で気を付けるべきことはある?
こんな疑問に答えます。
今回、参考にした本はこちら↓
『Rp.+(レシピプラス) 2020年秋号 Vol.19 No.4
腎臓が教える「腎機能のみかた」: 助ける薬と避けたい薬』
※薬剤師向けの雑誌です。
知識ゼロの人が読むのは、少し厳しいのでご注意を。
もくじ
腎臓についての基礎知識
知っているようで、うまく説明できない「腎臓ってなに?」を整理していきましょう。
腎臓って何してるの? →血液の “浄水場” です。
腎臓の主な働きは『尿を作る(血液中の老廃物・不要物を処理する)』こと。
いわゆる血液の “浄水場” ですね。
腎臓は、体にとって
- 必要なもの → 捨てすぎない。
- 不要なもの → 捨てる。
という、高度な技を使って血液をキレイにしています。
腎臓は血液を濾過して尿を作ります。
その時の濾過する場所は『糸球体』という血管の塊です。
“腎機能” って? →糸球体濾過量(GFR)のこと。
腎臓の機能のことを “腎機能” と言います。そのまんまですね。
難しい言葉を使うと、腎機能は『糸球体濾過量(GFR)』という数値で評価できます。
糸球体濾過量(GFR)は、「糸球体で濾過できる量」のこと。
これもそのまんまの意味ですね。
糸球体は「血液を濾過して尿を作る、血管の塊」でしたね。
なので、血管が傷つきやすい病気(高血圧・糖尿病など)の人は、だんだん腎臓が弱っていきます。
(※動脈硬化が起きると、尿タンパクが出る原因に。)
つまり「腎臓が弱る」=「糸球体濾過量が減る」ということ。
腎臓(血管)は傷ついたら再生しないので、歳とともに徐々に弱っていくのが普通の姿。
でも、傷つけすぎると「体の寿命」より先に「腎臓の寿命」が来てしまいます。
腎臓の働きがなくなると、自力で血液をキレイにできず、命を維持できません。
つまり、透析が必要になります。
(透析が必要なくらい血管が傷ついている人は、心筋梗塞・脳梗塞・脳内出血も起きやすいので、透析が必要になる前に寿命が尽きることも多くありますが。)
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慢性腎臓病(CKD)とは
- 腎機能(GFR)が落ちた
- タンパク尿が出る
こんな状態が続くことを『慢性腎臓病(CKD)』といいます。
(※日本では、成人の8人に1人がCKD)
CKDの主な原因は、主に以下の3つ。
- 加齢
- 血管を痛める病気(高血圧・糖尿病)
- 腎臓そのものの炎症
CKDの人の腎臓は、健康な人と比べて半分以下の力しか持っていません。
なので、血液から捨てるべきものを捨てきれず、体内に不要なものが溜まってしまいます。
また、腎臓の働きが弱っても、請け負う仕事量は変わりません。
よって、ただでさえ弱った腎臓に余計に負荷がかかり、悪化スピードは速くなっていきます。
なので、CKDの治療においては
- 食事に気をつけて、腎臓の仕事量を減らす。
- 薬で、腎臓の働きを助けてあげる。
これらで、腎機能悪化の予防するのが重要です。
CKDの重症度(ステージ)分類
CKDには重症度(ステージ)の一覧表があります。
この表から、
- 縦軸:GFRの値
- 横軸:タンパク尿の量
で、CKDの重症度(ステージ)が分かりますね。
色分けされている重症度(ステージ)は、イベント(死亡・透析導入・心筋梗塞・脳梗塞)のリスクの高さを示しています。
CKDになったら、どうなるの?
CKDは、改善する方法がありません。
(※どの治療法も、悪化を食い止めるだけ)
体にとって不要な尿素(窒素)などが捨てれないと、全身に溜まって尿毒症になる危険性もあります。
『尿毒症』とは
腎機能が下がって、尿と一緒に捨てられるべきものが溜まることで起きる症状。
例)だるさ・むくみ・息苦しさ・意識障害・けいれん・頭痛・吐き気・下痢・出血しやすい
また、カリウムが高くなると心臓の拍動リズムが狂って、最悪の場合は心停止が起きます。
そのくらい、腎臓が悪い状態は恐ろしいことなんです。
このような命の危険を避けるためには、繰り返しになりますが
- 日々の食事に気をつける(腎臓の仕事量を減らす)
- 症状に合った薬で治療する(腎臓の働きを助ける)
ことが重要です。
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腎臓の働きを助ける治療法
薬で、腎臓の働きを助ける
弱った腎臓の働きを助けるために、以下のような薬たちが使われます。
利尿薬
電解質(ナトリウム・カリウム・塩化物イオン)を尿中に捨てて、尿を増やします。
貧血の薬[赤血球造血刺激因子製剤(ESA)・鉄剤・HIF-PH阻害剤]
赤血球を作るためにはESAが必要。赤血球と一見関係なさそうな腎臓ですが、実はESAを作る場所は腎臓です。
なので、腎機能が下がるとESAを作る力も落ちるんですね。
腎性貧血(腎臓が弱ったのが原因でESAを作れず、赤血球が減る貧血)にならないためには、薬による助けが不可欠です。
活性型ビタミンD3製剤
腎臓はビタミンDを活性化して、活性型ビタミンDにします。(活性型ビタミンD3は骨を作るために必要)
腎臓が悪くなると、ビタミンDを活性化できなくなって骨粗鬆症になります。
薬として、既に活性化してあるビタミンDを摂ることで骨が脆くなるのを防ぎます。
カリウム吸着薬・リン吸着薬
カリウム・リンを尿中に捨てる力が落ちるので、薬によって消化管の中で吸着させて便に出すことで腎臓を助けます。
尿酸降下薬[尿酸排泄促進薬・尿酸生成抑制薬]
腎臓が尿酸を捨てる力が落ちると、痛風になります。
痛風を予防するために尿酸排泄促進薬(尿酸を捨てる力をアップ)・尿酸生成抑制薬(尿酸が作られにくくする)を使います。
重曹(炭酸水素ナトリウム)
通常、血液は弱アルカリ(pH7.4)ですが、腎臓の働きが落ちると保てなくなり、酸性寄りになります。
血液のpHは0.1狂うだけで死にかけることもあるので、これを防ぐためにアルカリ化剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)を1日1〜3g服用します。
高血圧・糖尿病の薬
腎臓は血管の塊なので、血管を傷つけないようにすることが腎機能を保つために重要でした。
高血圧・糖尿病は血管にダメージを与える主な原因なので、降圧薬・血糖降下薬で血圧・血糖値をコントロールすることで、腎臓が弱くなるスピードを抑えられます。
このように、どの薬も腎臓の働きを補助するだけです。
腎臓そのものを回復させる薬はありません。
(※開発中の薬はあるので、将来的には…いつか…できるかも。というレベル)
なので、今の医療レベルでの最善策は「腎機能の悪化速度を遅くして、寿命まで腎臓が働き続けられればOK」という感じ。
それが無理なら、透析を受けることになります。
透析で、腎臓の機能を肩代わりする
週12時間[週3回×1回4時間]ほどかけて 週168時間分の腎臓の働きを補います。
やっているのは、余分な水分・尿毒素(尿素・クレアチニン・尿酸など)を除いて、電解質・ブドウ糖を補充することで、あくまでも腎臓の機能の一部分に過ぎません。
腎臓を助ける薬のところでも解説したESAや活性型ビタミンD3を作る機能までは補えないので、そのあたりは薬でのカバーを継続します。
食事療法で、腎臓への負担を減らす
CKDや透析中の人は、食事にも十分気をつける必要があります。
とはいえ、基本は
- 規則正しい食事
- 適正体重の維持
である点は、普通の人と変わりません。
色々な栄養素の摂取量に注意しながら、エネルギー不足を起こさないようにしましょう。
また、誤解されがちなポイントですが『禁止の食べ物』は特にありません。
あくまでも、食べる “量” の制限が大切です。
(同じ食材の食べ過ぎには要注意!)
制限すべき栄養素としては、
- タンパク質(窒素)
- カリウム
- ナトリウム(食塩)
- 水分
- リン
このあたりがあります。
タンパク質(窒素)
窒素は尿素に変えて捨てるのですが、CKDの人は尿を作る(尿素を捨てる)能力が落ちているので、窒素のとりすぎは尿毒症の危険があります。
タンパク質は窒素を多く含んでいるので、食べる量を制限しなければなりません。
とはいえ、タンパク質は筋肉を作るためにある程度は必要なので、極端に制限しすぎないことも重要です。(寝たきり予防にも、筋肉は大事!)
カリウム
体の中でカリウムが濃くなると、最悪の場合は心臓が止まります。
なので、カリウムを多く含む果物・生野菜もたくさん摂りすぎないようにすべき。
また、減塩食品はナトリウム塩の代わりにカリウム塩が含まれていることもあるので、成分表示には要注意。
腎臓が弱っている人は、ナトリウム・カリウムともに制限が必要なので、料理は薄味になりがちです。
ナトリウム(食塩)
健康な人と同じ目安の、1日6gまでの食塩制限をしましょう。(CKDだからといって、特別なことはありません。)
実際は、制限というより「過剰な摂取量→適正化する」程度の認識で取り組めばOK!
そのための無理のない目標が『食塩1日6gまで』なんです。
※この目標は『CKD診療ガイドライン』にも記載があります。
『ガイドライン』とは
日本における治療のガイドブックです。
たくさんの専門医が、寄ってたかって編集に携わっています。
内容は、エビデンス(科学的根拠)に基づくものしか掲載されません。
水分制限
尿が作れないので、体の水分量もうまく調節できなくなって、利尿薬のお世話になります。
体の水分量が多いと、むくみの原因になるだけでなく、心臓に負荷がかかって心不全になるので、水分制限はかなり大事。
リン制限
CKDの食事管理において、リンの管理は特に重要。
リンは、タンパク質・食品添加物に多く含まれています。
リンを制限するには、良質なタンパク質(アミノ酸スコアが高く、リン含有量が低いもの)を摂るのがベスト。
『アミノ酸スコア』とは
タンパク質の栄養価を評価するもの。(食べ物に「必須アミノ酸がどれくらい理想的に含まれているか」を示す)
高スコア食品は、卵(特に白身)・豚肉など。
当然、加工食品は減らしましょう。
- ハム・ソーセージ・惣菜
→食品添加物に、無機リンが多く含まれる - 練り物
→保存料に、リンが多く含まれる。(しかも腸からの吸収が良いので、リン負荷になりやすい…) - 炭酸飲料
→泡を細かくするために、リン酸が使われている。
このように、あらゆるものにリンが含まれているので、食べる “量” と “質” でコントロールすべきなんです。
リンのコントロールが悪ければ、リン吸着薬(消化管内でリンと吸着して、小腸からのリン吸収を邪魔する)を使う必要が出てきます。
例)沈降炭酸カルシウム・炭酸ランタン・クエン酸第二鉄酸化物・スクロオキシ水酸化鉄・セベラマー・ビキサロマー
カルシウム代謝を調節して、骨と血管を守る薬
腎臓は、ビタミンDを活性型ビタミンD3にして、体内のカルシウムを調節しています。
腎臓でビタミンDの活性化ができなくなると
→活性型ビタミンD3の働きが弱まる
→カルシウムを吸収しにくくなり、カルシウムが減る(低カルシウム血症)
→血中のカルシウム濃度を上げるために、骨を溶かす
→骨粗鬆症になる
→余分なカルシウムは血管で固まる(血管石灰化)
というように、体のカルシウムの流れが滞ってしまいます。
この状態を、『CKD-MBD』と呼びます。
『CKD-MBD』とは
- CKD:慢性腎臓病
- MBD:骨ミネラル代謝異常
という意味なので、CKD-MBDは「慢性腎臓病に伴う、骨ミネラル代謝異常」のことです。
簡単に説明すると、腎臓が悪くなると
- 骨が弱くなって
- 血管が骨になる
ので、大変だ!
という感じ。
もう一度、詳しい流れをまとめます。
- 腎臓の機能が低下する。
- ビタミンDを活性化できなくなって、働きが弱くなる。
- 小腸からカルシウムが吸収できず、低カルシウム血症に。
- 血中のカルシウムを補うために、骨を溶かす。⇒骨粗鬆症!
- 余計なカルシウムは血管で固まる。⇒血管の石灰化!
CKD-MBDの治療目標は『骨と血管を守る』こと。
血液検査の値以外で自覚症状はありませんが、骨折・心血管疾患の予防にはとても重要です。
『血管石灰化』とは
血管に、余分なカルシウムが固まること。(血管が骨になる)
血管の柔軟性がなくなったり、狭くなったりするので心血管疾患につながります。
(時には、心臓の弁が石灰化することも!)
※骨はカルシウム+リンが合わさって作られるので、リンの値が高いと血管石灰化も起きやすくなる。
(リンが目に見えて上がるCKDステージ5くらいからは、特に注意が必要。)
CKD-MBDの治療は単純で、活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオールとか)を内服して、小腸からのカルシウム吸収を促進してあげればOKです。
活性型ビタミンD3が自前で作れないなら、外から補ってあげればいいよね。というだけ。
腎機能に合わせた、薬の量の調節
体に不要なものは、肝臓・腎臓で分担して処理しています。
薬は体にとって意味不明な存在なので、腎臓は薬を捨てる働きもしてるんです。
腎機能が低い人は、腎臓が薬を捨てる能力が落ちている状態。
なので、薬の量を健康な人より減らさないといけません。
(※重症のCKD・透析の人は、使ってはいけない薬も増えます。)
- 薬は体にとって異物なので、腎臓で取り除かれる対象になる。
- 腎臓が弱っている人に健康な人と同じ量を投与したら、キレイにできる能力の限界を超えて、体に薬がたまってしまう。
- その結果、中毒症状(副作用)が起きやすくなる。
⇒腎障害がある人は、使ってはいけない薬は避け、減らすべき薬は量を調節すべき。
薬による急性腎障害(AKI)を防ぐために
- 腎臓に良くない薬が重なって使用された。
- 脱水(発熱・下痢・嘔吐・発汗)になった。
こんなときは、薬による急性腎障害(AKI)の危険があります。
腎臓への、薬の三段攻撃(triple whammy)を避けよう
腎虚血(腎臓への血液不足)の三段活用が、以下の薬によって起きます。
- 降圧薬の1種であるRAS阻害薬(ACEi,ARB)
→腎臓にかかる血圧が低くなり、血液不足に。 - 利尿薬
→体液量が減り、腎臓への血液量も減る。 - NSAIDs(ロキソニンなどの解熱鎮痛薬)
→血管を広げる物質が作られなくなり、腎臓の血管が狭くなって血流が悪化。
このように、三者三様に腎虚血をもたらすんですね。
この3種類の薬を使う場面として
- 血圧・タンパク尿を管理するためにRAS阻害薬を使いはじめる。
- さらなる血圧・体液量コントロールのために利尿薬が追加される。
- ある日、腰・膝の痛みでNSAIDs(解熱鎮痛薬)が1日3回で処方され、真面目に毎日服用する。
こうして、見事に腎臓の血流が悪くなって、急激に腎機能が悪化することになります。
真面目に医師の処方どおりに薬を使っただけなのに、皮肉なもんですね。
このとき、NSAIDsの処方は普段血圧や腎機能を見ている医師とは別の医師が行うことが多いので、より注意が必要です。
患者側ができることとしては、診察時に
- 他の医院で普段どんな治療を受けていて
- なんの薬を飲んでいるのか
を、ちゃんと把握して伝えられることが重要です。
これは薬剤師的な視点になりますが、痛み止めの処方が出ていたら
- 処方医は、腎機能が低下している患者であることを認識しているのか
- 炎症がないなら、アセトアミノフェン(NSAIDsではない解熱鎮痛薬)に変えられないか
- できるだけ少量(できれば頓服)・短期間にできないか
を確認するのがベストです。
無用なAKIリスクを抱え込む必要はありません。
腎臓シックデイ対策
CKDの人が脱水(発熱・下痢・嘔吐・発汗)になった日のことを、“腎臓シックデイ” と言います。
こういうときはAKIが特に起きやすいので、休薬すべき薬を主治医に確認しておくことがとっても大切。
例えば
- 血圧がある程度以上高くないなら、RAS阻害薬を休薬する
- 体重が増えてなければ(浮腫でなければ)、利尿薬を休薬する
- NSAIDsは腎臓を痛める可能性がある薬と認識し、痛みが我慢できるなら休薬する
という感じ。
腎臓シックデイ時の血圧・体重の休薬条件を主治医に確認しておくことが、自分の腎臓を守ることにつながります。
腎臓シックデイの多くは自宅で起き、急性腎障害(AKI)は入院理由の5%ほどを占めるので、入院してから後悔しないようにしましょう。
そう聞くと単純な話ですよね。
まとめ
この記事の内容を簡単にまとめると
- 腎臓は、血液の“浄水場”
- “腎機能”は、腎臓の糸球体(血管の塊)で濾過できる量(GFR)のこと
- 慢性腎臓病(CKD)は、GFRが低下した状態
- CKDになると、体にとって不要なものを捨てる能力が落ちる
- CKDを治す方法は存在しないので、食事・薬で悪化を食い止めるのが治療法
という感じでした。
できるだけ簡単に解説したつもりですが、1度読んだだけで全て理解するのは難しいですよね。
何度か読み返しても分かりにくいポイントは、主治医や薬剤師に気軽に質問して頂けたらと思います。(この記事の予備知識があれば、会話もしやすいはず。)
腎臓を守ることは、命を守ることです。
透析なしで一生を終えられるように、今日から食事・薬に気をつけてみて下さい。
今回、参考にした本↓
『Rp.+(レシピプラス) 2020年秋号 Vol.19 No.4
腎臓が教える「腎機能のみかた」: 助ける薬と避けたい薬』