こんにちは、風馬(ふうま)です。
現役で病院薬剤師をしています。
先日、祖父(認知症)がポットの使い方(ボタンを「ロック解除」→「給湯」の順で押す)が分からなくなっていました。
暴言を吐くようにもなり、一緒にいる祖母も疲弊してるとか…
そこで、一般人の家族向けに認知症の基礎知識をまとめることにしました。
こうして生まれたのが、この記事です。
この記事では
どんな治療がある?
本人とどうやって関われば良い?
こんな疑問に答えます。
[参考にした本は、以下の2冊]
『レシピプラス Vol.16 No.4
要点ガッチリ!「認知症高齢者」対応力』
↑薬剤師向けの雑誌です。
知識ゼロから読むのは、少し厳しいのでご注意を。
『薬局ですぐに役立つ 薬の比較と使い分け100』
↑認知症の薬についての、4ページほどを参照しました。
この記事で、認知症の基礎知識を整理しましょう!
もくじ
認知症とは
- 単なる物忘れ・ボケとは違う。脳に変化が起きて、認知症になる。
- 昔は痴呆と言われていたが、差別的な意味が強いので認知症と改められている。
(参考:「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書-厚労省)
「物忘れ・ボケ」と「認知症」は、別物
- 加齢による物忘れ・ボケ
- 認知症
この2つは完全に別物です。
「物忘れ・ボケ」は加齢が原因で、生活に支障がない
単なる “加齢” による物忘れのこと。
自然な老化現象で、65歳以上の4人に3人はこちらです。
- 出来事の一部を忘れる
※ヒントがあると思い出せる
※生活に支障はない - ここ数年で特に変化はない
- 他の症状は目立たない
「認知症」は脳の変化が原因で、日常生活に問題が起きる
一方で “脳が変化” して起きるのが認知症です。
このような人が、65歳以上の10〜20人に1人います。
- 出来事を丸々忘れる
※ヒントがあっても思い出せない
※生活に差し障る - この数年で増えている
- 他の症状もある
例)今日が何日か分からない
知った場所で道に迷う
通帳・印鑑・財布の場所が分からない
料理の味付けがおかしい
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認知症のタイプは4種類
一口に認知症と言っても、脳に変化が起きた原因・場所によって種類が分けられます。
(種類によって治療法も変わるので、どのタイプの認知症なのか知っておくのが重要。)
有名なのは以下の4種類ですね。
- アルツハイマー型(68%)←約100万人
- レビー小体型(4%)
- 脳血管性(20%)
- 前頭側頭型(1%)
この他に、アルコール性(4%)や混合型(3%)の認知症もあります。
これらは、ざっくり
- アルツハイマー型・レビー小体型
→ある種のタンパク質が脳内にたまって、神経細胞が死ぬのが原因 - 脳血管性型
→脳梗塞・脳出血で、神経細胞が死ぬのが原因
と、大別できます。
アルツハイマー型
- 記憶障害(物忘れ・記憶全体が抜け落ちる)が中心的な症状
- 運動能力は重症になるまで保たれていることが多い
- 周辺症状(BPSD):妄想・攻撃性・徘徊 →介護の負担増
進行は緩やかですが、認知機能障害が進むと介護困難な症状が出てきます。
→例:物盗られ妄想・徘徊・食行動の異常(異食)など
個人差もありますが、発症から7年ほどで身の回りのことができなくなり、身体的な症状(嚥下障害・褥瘡)を合併する危険が高まります。
さらに進行すると、無関心(アパシー)が前面に出てきて、多動・興奮は軽くなっていきます。
アルツハイマー型の重症度は、以下のように区分されます。
レビー小体型
- 主に、認知機能障害(軽症)+パーキンソン病的な症状(身体の硬直・歩行困難)がある
- 特徴的な症状は
・変化しやすい認知機能障害(せん妄と区別しにくい)
・リアルな幻視(周囲の人が見えないものが見える)
・睡眠時の異常行動(レム睡眠行動障害)
基本は緩やかに進行するが、急に悪化することもある。
初期症状の多くが幻覚・幻聴・悪夢(物忘れではない)ので、「認知症=物忘れ」と思い込んでいると発見が遅れやすい。
パーキンソン病的な症状(パーキンソニズム)
パーキンソン病的な症状によって動作が緩慢になるので、急かしたり手を引っ張ったりすると転倒するリスクがある。
急がせると緊張が増して逆効果になるので、時間に余裕を持って行動させることが重要。
睡眠時の異常行動(レム睡眠行動障害)
悪夢によって
- 大声で叫ぶ
- 寝た状態で起きて暴れる
例)隣で寝ている人を叩く・近くの家具を破壊する
という異常行動が見られます。
本人の自覚症状は乏しく、家族が先に気付くことも多い。
夢遊病とは違い、悪夢の内容を鮮明に覚えているのが特徴。
※一般的な睡眠薬(マイスリーなど)は、認知機能低下・転倒リスク上昇があるので避けるのがベスト
※新しい睡眠薬(ロゼレム・ベルソムラ)はOK
レビー小体型の経過
初期
- 認知機能は良好で、周囲と心を通じ合わせるのに問題ない時間が多い
物忘れも軽いので、認知症的な症状は目立たない - 徐々に幻視・錯視の訴えが増える(幻聴があることも)
例)ハンガーにかかった服を人と見間違える・壁のシミが虫や動物に見える - 妄想(被害妄想・嫉妬妄想)が強くなってくる
例)自分の家なのに自分の家じゃない・家族はニセモノだ
中期
- 認知機能低下の時間が長くなる
- パーキンソニズムによって、歩行困難に
- 幻視・妄想も悪化し、生活の介助が困難になる
後期
- 認知機能は波がなくなり、常に悪い状態に
- パーキンソニズムもさらに悪化
→常に介助が必要(ほぼ車椅子・寝たきり)
※嚥下障害も問題になってくる
脳血管性
- 病気(脳梗塞・脳出血)や事故の後遺症として発症する認知症
- 脳がダメージを受けた部分の機能が低下するので、症状の種類・程度は様々
例)側頭葉なら、言葉の障害が起きる - 認知機能が急に低下する
(梗塞・出血が起きるたびに、症状が階段状に進行する)
※もちろん、高血圧・脂質異常症・糖尿病の治療も重要。
前頭側頭型
脳の前頭葉・側頭葉が委縮する認知症で、初老期(65歳以下)に発症しやすいので「若年性認知症」とも呼ばれます。
- 初期症状:無気力・無関心・性格の変化
- 主な症状:認知機能障害 + 社会性の障害
- 特徴的な症状:脱抑制・常同行動
脱抑制(感情・欲求が抑えられなくなる)
感情・欲求を抑えられなくなり、他人への配慮・道徳観がなくなること。
その結果、社会的・性的に不適切な行動をするようになります。
例)万引き・痴漢・裸になる
常同行動(時刻表的行動)
時刻表のように毎日決まった時間に、決まった行動をすること。
例)毎日、同じ時間に同じコースを散歩する
見られにくい症状
- 幻覚・妄想
- アルツハイマー型のような記憶障害
- 視空間認知障害(目で見た情報から空間の状態を把握できなくなること)
- 遂行機能障害(「目標設定→プロセスの計画→行動」が出来なくなること)
これらの症状は、あまり見られないと言われています。
軽度認知障害(MCI)
認知症より軽症だが正常な老化過程より認知機能が低下している状態が『軽度認知障害(MCI)』です。
65歳以上の5人に1人はMCIで、毎年そこから10人に1人くらいが認知症になるとの報告もあります。
このことから、MCIは認知症の前段階ではないかと言われています。
(まだ詳しいことは研究されていないので、一説に過ぎませんが。)
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認知症治療の全体像
認知症の治療法には、ざっくり以下の4つがあります。
- 薬物療法
- 非薬物療法
- リハビリ
- 介護者の対応の工夫
このどれかが欠けるだけで治療がうまくいかなくなるので、漏れなく行うのが重要です。
薬による治療
認知症の薬を使う目的は、大きく2つ
- 認知症の悪化を遅らせる
[↑中核症状(認知機能障害)の進行抑制] - 日常の困りごとの解決
[↑周辺症状(BPSD)の症状改善]
現代医療では「認知症が進行した脳の復元」は不可能なので、認知症の進行を抑える薬しかありません。
根本的に治す薬は存在しないんですね。
ただし、薬だけでは満足行く治療効果は得られません。
(薬にばかり頼って薬の量が増えると、副作用のリスクも上がるので注意が必要です。)
認知症の薬は、症状の進行を抑えつつ
- 他の治療法(非薬物療法・リハビリ)の効果アップ
- 本人・家族のQOL(生活の質)を維持
→対応の工夫をする余裕が生まれる
ということにも役立てられます。
認知症の薬を詳しく説明すると長くなるので、別の記事にしました。
こちらの記事では、現在認知症に使える4種類の薬を全て解説しています。
→【簡単】認知症の薬4種類を、薬剤師が分かりやすく解説してみた!
非薬物療法
薬による治療に加えて、以下も行っていきます。
- 運動療法
→有酸素運動を中心に行う - 音楽療法
→音楽を鑑賞したり、実際に演奏に参加するなど - 回想法
→過去の経験を振り返る - アニマルセラピー
→動物・ぬいぐるみに触れ合う
リハビリ
リハビリスタッフと行う治療法です。
- 作業療法
→馴染みの活動を通して、残った能力を高める - 園芸療法
→心身的・社会的機能を回復させる
介護者の対応の工夫
介護者(主に家族)による、患者の尊厳を大切にしたケアのことです。
医療従事者は、介護者に寄り添い、力を引き出す支援を行ってくれます。
困ったときの対応の仕方
僕は薬剤師なので、ここでは薬に関するケースを2つ紹介します。
[ケース1:薬を飲ませたのに、飲んでいないと言う]
認知症の患者は、薬を飲んでもその記憶自体をゴソッと忘れて「飲んでいない!」と言います。
ここで対応する時に重要なのが
- 介護者にとっての、客観的事実
- 認知症患者の中での、事実
が異なると、認識すること。
『記憶になければ、本人にとって事実ではない』
この原則が分かっていないと、毎回の事実確認に途方も無い労力が必要になり、介護疲れに繋がります。
具体的な対応としては
- 飲んでいないことを認めて「次の薬は30分後に飲みましょう」というように時間を引き伸ばし、薬を飲みたい気持ちが収まるのを待つ
- 薬を自分で管理したい気持ちが強い場合・どうしても薬を飲みたい気持ちが収まらない時は、主治医と相談して偽薬(乳頭など)・市販の整腸剤・サプリメントなど、体への影響が少ないものを飲ませる
という感じです。
[ケース2:服薬を拒否する]
「自分は病気ではないから、薬は飲まない」と言って、服薬を拒否されることがあります。
ここでも、本人にとっては “自分は病気じゃない” ことは事実なので、いくら介護者が薬を飲むよう説得しても服薬してもらうのは難しいですね。
このような場合は介護者以外の人(他の身内・介護スタッフ・医師・薬剤師)から、服薬を勧めるのが効果的です。
他にも
- 薬が多すぎるのが原因の場合→主治医に相談して減らしてもらう
- 粉薬を嫌がる場合→錠剤・ゼリー・貼り薬に変える
- どうしてもだめなら→味噌汁など食事に混ぜる
というような対応もあります。
周辺症状(BPSD)の対応
周辺症状(BPSD)とは、中核症状と環境・身体・心理などの要因が合わさって生じる精神症状・行動障害のことです。
特に、介護者の対応が悪いとBPSDの発生・悪化の要因になるので注意が必要。
という、負のループに入らないようにしなければなりません!
BPSDの対応については、かなり長くなるので別の記事でまとめました。
→BPSD(認知症の周辺症状)の治療法を、薬剤師が分かりやすく解説
まとめ
この記事では、認知症の基礎知識として
- 認知症と物忘れの違い
- 認知症の4つのタイプと特徴
- 認知症の治療法の概要
を解説してきました。
とりあえず
- 認知症がどういう病気で
- どんな治療が必要なのか
は、分かってもらえましたでしょうか。
この記事では書ききれなかった「薬のこと」「BPSDのこと」は以下の記事で詳しく説明しているので、参考にしてみて下さい。
「認知症に使える薬(全4種類)」を解説した記事
→【簡単】認知症の治療薬(全4種類)を、薬剤師が分かりやすく解説
「BPSDの対応・治療」についてまとめた記事
→BPSD(認知症の周辺症状)の治療法を、薬剤師が分かりやすく解説
[この記事で参考にした2冊]
『レシピプラス Vol.16 No.4
要点ガッチリ!「認知症高齢者」対応力』
『薬局ですぐに役立つ 薬の比較と使い分け100』
この記事で、1人でも多くの認知症患者・家族が救われることを祈っています。